2022年3月12日に京王電鉄では京王線のダイヤ改正を実施し、準特急という種別が消滅することになりました。
2001年から21年間にわたり設定されていた「準特急」の変遷と、このたび廃止となる理由についてまとめました。
(初回投稿:2022年3月8日,最終更新:2022年3月11日)
2022年3月12日ダイヤ改正にて「準特急」廃止
「準特急」は2022年2月現在、京王電鉄(京王線・相模原線)のみに設定されており、最上位の「特急」に準じて「2番目に速い」種別です。
この「準特急」は2022年3月12日のダイヤ改正にて廃止され、特急に統合されることになりました。
・2022年3月11日までの「準特急」停車駅
新宿・笹塚・明大前・千歳烏山・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
・2022年3月12日以降の「特急」停車駅
新宿・笹塚・明大前・千歳烏山・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
(:それ以前の特急停車駅+笹塚・千歳烏山が追加)
迷種別「準特急」の登場から廃止まで
準特急が登場したのは2001年3月のダイヤ改定で、この21年間で徐々に停車駅を変えながら、とある役割を果たしてきました。
準特急という種別はおおむね5期に大別することができ、
・第1期 2001年3月~2006年9月
特急に準じた種別として新設
・第2期 2006年9月~2011年3月
遠近分離要素を持つ(末端区間は各駅停車)
・第3期 2011年3月~2013年2月
特急に代わりメイン種別となる
・第4期 2013年2月~2015年9月
特急が復活して影をひそめる
・第5期 2015年9月~2022年3月
停車駅を増やして復活する
といった形になっています。
21年間をかけて行われたことは「準特急という中間種別を介して、特急の停車駅を増やした」であり、これは停車駅の変遷を見るとよく分かります。
・2001年3月の「特急」停車駅
新宿・明大前・調布・府中・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・京王八王子
・2001年3月の「準特急」停車駅
新宿・明大前・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
(:それ以前の特急停車駅+分倍河原・北野)
・2013年2月の「特急」停車駅 (この改定で準特急が大幅に減)
新宿・明大前・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
(:それ以前の準特急停車駅と同じ = 特急停車駅+分倍河原・北野)
・2015年2月の「準特急」停車駅 (この改定で準特急が復活)
新宿・笹塚・明大前・千歳烏山・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
(:それ以前の準特急停車駅+笹塚・千歳烏山)
・2022年3月以降の「特急」停車駅
新宿・笹塚・明大前・千歳烏山・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
(:それ以前の準特急停車駅と同じ = 準特停車駅+笹塚・千歳烏山)
・「急行」停車駅
新宿・笹塚・明大前・桜上水・千歳烏山・つつじが丘・調布・東府中・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
以上から、準特急の設定を増やしたり減らしたりしながら、徐々に特急の停車駅が増やして急行に近づけていった様が見てとれます。
主要都市間を結んでいた最上位種別の「特急」の停車駅が徐々に増えていき、いつの間にか「むかしの急行と同じくらい停車駅が増える(=特に急がなくなる)」ということは、阪急京都線や京阪本線など他社でも見られる現象です。
この「特急の停車駅増やし」を、2001年3月のダイヤ改定時にいきなり行うのではなく、徐々に変えていくための「緩衝役」を担ったのが「準特急」だったのです。
第1期(2001年3月) 特急に準じた種別として新設
準特急という種別が登場したのは、2001年3月のダイヤ改定です。
この2001年3月のダイヤは、以後の京王線のパターンダイヤの骨格を成すこととなり、20分あたりのパターンが
「特急京八・急行山口・特急橋本・直通快速橋本・各停3本」
というサイクルから、
「特急京八・準特急山口・直通急行橋本・快速橋本・各停2本」
に変更となりました。
※これ以降、京王八王子=京八、高尾山口=山口と略します。また、直通=都営新宿線直通を表します。
この時に新設された「準特急」の停車駅は、特急に「分倍河原・北野」の2駅を加えたもので、新宿~高尾山口間では「明大前・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・めじろ台・高尾」に停車していました。
2駅の停車駅の違いはありますが、「準特急」は文字通り「特急に準じた種別」として設定されました。
なお、準特急の停車駅をよく見ると、新宿~府中間は特急、府中~高尾山口間は急行の停車駅となっており、運転台等に表示される種別表示も新宿~府中間は「特」、府中~高尾山口間は「急」となっていました。
これは当時の京王線の運行システム上、特急・急行・各停のどれかしか設定できなかったためであるようです。
さて、この2001年3月ダイヤ改定にて、調布~高幡不動の特急停車駅においては、従来の「特急は20分おき」から「特急みたいなモンが10分おき」に変わったため「速い列車が大増発」された形になりました。
この時に単純に急行から特急への格上げとしなかったのは、乗降客数の増えていた分倍河原と北野に対するお試し要素もあったようですが、これがこの先21年間にわたり種別設定が迷走する発端ともなります。
ちなみに、9000系の表示器は0番台が3色LED、2006年から導入された30番台はフルカラーLEDであり、準特急の種別色は0番台が赤色、30番台は「オレンジ色」で表示していました。
一方で駅の発車表示機(3色LED)においては統一されておらず、京王線新宿駅では特急が赤色・準特急がオレンジ色、高尾山口駅では特急・準特急ともに赤色でした。
このような種別の色の不統一(“迷走”)は、2018年頃まで続くことになります…。
第2期(2006年9月) 遠近分離要素を持つ(末端区間で各停)
当初は「特急に準じた」種別であった準特急に、2006年9月ダイヤ改定より新たな要素が付加されます。
鉄道ダイヤにおける優等列車(京王線においては「急行系列車」と呼ぶらしい)の設定のしかたは大別して、
①主要駅速達型
②遠近分離型
③混雑分散型(千鳥停車)
の3種類があり、2001年3月改定ダイヤ時の準特急は①主要駅速達型でした。
他社の例としては、
①小田急線、東急田園都市線
②東武東上線、京阪本線
③西武池袋線、つくばエクスプレス
などが挙げられます。(2022年1月現在の各社ダイヤ)
①は「速い列車」である優等列車と「遅い列車」である各停を分けて、優等列車の停車駅を需要の大きな主要駅に絞って等間隔で設定し、通過する小さな駅と主要駅の間は各停を利用するというものです。
②は「長距離」を走る優等列車と「短距離」を走る列車を分けて、優等列車はターミナル駅から離れた閑散区間では各駅に停車するというものです。
さて、①主要駅速達型であった準特急は、2006年9月ダイヤ改定より②遠近分離型の要素を持ち始めます。
この改定において、土休日ダイヤのみ準特急の北野~高尾山口間が各駅に停車となり、各停の運転区間が一部で縮小されました。
各停は末端区間まで8両・10両編成で運転するほどの需要はなく、同時期に京王線全体で「4両・6両編成の運用をなくしていく」方向性であったため、中間種別の準特急を活用して解決を図ろうとしたようです。
ここから徐々に、準特急は「特急に準じた種別」とはいえなくなっていきます。
↑「準特急 北野行」の表示で新宿を発車し、北野から高尾山口は各停に化ける。
第3期(2011年3月) 特急に代わりメイン種別となる
2011年3月の東日本大震災に伴う節電ダイヤにおいて、京王線は「特急を準特急に変更して全体的に減便」する形で対応し、2012年8月のダイヤ改定では「特急を廃止して準特急がメインの種別」となりました。
特急が不在であるのに「特急に準じた」準特急が多数設定されている…という異様な状況となりますが、これは調布駅の地下化により相模原線との平面交差解消されて初めてのダイヤ改定ということで、お試し要素もあったのか、およそ半年に限っての光景でした。
なお、この頃から準特急の種別幕が「特急に準じた赤色」から「黄色」に変更されていき、特急に準じた種別であるのかが微妙になっていきます。
第4期(2013年2月) 特急が復活して影をひそめる
先述のとおり特急がいないのに「特急に準じた」準特急が多数設定されているという異様な状況は半年限りで終わり、2013年2月ダイヤ改定にて特急が復活します。
この時に特急の停車駅が「明大前・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野」という以前の準特急と同じものに変更され、準特急という中間種別を介した特急停車駅の増加第1弾がここで完了します。
いったん役目を果たした準特急は、この時の改定で土休日の新宿~高尾山口間に減り、影をひそめる形になります。
新宿~高尾山口間を、土休日のみ特急ではなく準特急とするのは、「土休日の北野~高尾山口間の各停運転をケチりたい」ためにほかならず、準特急に変に②遠近分離型の要素を付加していなければ、2013年2月に準特急は廃止されていたかもしれません。
なお、2013年2月のダイヤ改定はパターンダイヤも大きく手が加えられた大きな変更であり、20分あたりのパターンが
「準特急京八・準特急山口・直通急行橋本・快速橋本・各停2本」
というサイクルから、
「特急京八・特急山口(土休日は準特急)・特急橋本・直通区間急行橋本・直通快速橋本・各停2本」
に変更となり、調布~新宿の運転本数が20分あたり1本増えました。
第5期(2015年9月) 停車駅を増やして復活する
準特急の次の動きは、2015年9月のダイヤ改正です。乗降客数の増えていた笹塚・千歳烏山への対応として、準特急の停車駅に両駅が加わりました。
・2015年9月の「特急」停車駅 (この改定で準特急が大幅に減)
新宿・明大前・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
)
・2015年2月の「準特急」停車駅 (この改定で準特急が復活)
新宿・笹塚・明大前・千歳烏山・調布・府中・分倍河原・聖蹟桜ヶ丘・高幡不動・北野・京王八王子
(:それ以前の準特急停車駅+笹塚・千歳烏山)
ここでも、特急を急行に変更したり、特急の停車駅をいきなり増やすことをせず、まずは中間種別の準特急の停車駅をお試しで増やす…という、2001年3月と同様の手法がとられました。
↑準特急が笹塚に停車し、都営新宿線からの列車と接続する準特急。
また、2013年9月のダイヤ改定以後は設定数が減っていた準特急が大幅に増え、日中の20分あたりのパターンが
「準特急京八・特急山口・準特急橋本・直通区間急行橋本・直通快速橋本・各停2本」
のサイクルに変更され、準特急が主体のダイヤとなります。
ここで新宿~高尾山口間の系統が「準特急」から「特急」に戻って「遠近分離型をやめる」あたりに、京王線の種別設定の迷走ぶりが見てとれますが、2011年3月から続いた迷走はここでいったん沈静化してひとつの着地点に至りました。
また、京王ライナーが運行開始となる2018年2月頃より、種別の色の整理が図られ、準特急は「オレンジ色」に統一されました。
そしてこの着地点から約6年半を経て、2022年3月ダイヤ改正にて特急の停車駅に笹塚・千歳烏山が追加されることで、準特急の「停車駅増加のための緩衝役」としての役目が終わり、準特急は廃止されることになりました。
2022年3月ダイヤ改正においては、2012年9月~2013年2月のときのように「いったん特急を消滅させてから半年後に復活」といった迷走をせずに、スパっと変えることにしたのは、ある意味潔い対応といえます。
準特急という「お試し要素の中間種別」の登場から21年もかかってしまいましたが、こうしてやっと、京王線の特急は「特に急がない」種別に落ち着くことができました。
準特急は”迷種別”と呼ばれることもありますが、沿線利用客に混乱の少ない形で運行形態を変えていくために、緩衝役としての設定意義は大きかったと考えています。
番外編・臨時「競馬準特」
準特急にまつわる変わり種(迷列車)として、2018年より設定された「競馬準特」を紹介します。
従前から東京競馬場の競馬開催日には、府中競馬正門前→新宿に臨時の直通急行が設定されてきましたが、2018年2月より「京王ライナー」が夕方時間帯に運行開始した関係で、ダイヤに臨時列車設定の余裕がなくなりました。
そこで、高幡不動の車庫から新宿へ送り込む回送列車を活用して、府中競馬正門前→新宿に3本の臨時準特急が設定されるようになりました。
↑「競馬準特」は新宿に到着後、座席の向きを変えて京王ライナーに充当される